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2001年11〜12月号 Vol.52 |
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機械のなかで時代を動かす摩擦技術
日本精工株式会社初代社長 山口武彦 |
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初代社長
山口 武彦 |
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摩擦をコントロールする科学技術、トライボロジー。
機械工業に不可欠な部品ベアリングで
20世紀の文明を支えてきた技術は、
地球環境を考える21世紀の工業にとって、
ますます欠かせない技術となっていく。
その先駆けとなったのが、日本でNo.1の
ベアリングメーカー、日本精工である。
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1999年、日産セドリック/グロリアに搭載された 無段変速機ハーフトロイダルCVTパワートロス・ユニット。 摩擦技術が20世紀末にたどりついた究極の結晶である |
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未来の摩擦技術が日本から走り出した
1999年11月、世界の技術者たちが注目するなか、1台の車がデビューした。技術者たちが注目したのは、無段変速機ハーフトロイダルCVT。42ページの下にある図でご覧いただけるように、変速ギアのかわりにディスクとパワーローラーを使って無段階で変速を行うユニットで、変速時のエネルギーロスをなくして燃費を大幅に向上させることでCO2の削減に貢献し、滑らかで力強い走りを実現する。摩擦に関する総合的な技術、トライボロジーの究極の結晶といわれ、20世紀初頭から多くの技術者が何度も実現を試みながらついに果たせなかった夢の技術が、その車、日産セドリックに搭載されていたのだ。21年の歳月をかけて、これを実現したのが日本精工である。軸受、すなわち機械を動かすためになくてはならないベアリング技術で日本の工業化をめざし、まさに機械の中枢部分でミクロン単位の技術によって、それを推進してきた企業である。
欧米先進国の機械工業をめざして
産業革命以降の技術史は、摩擦との戦いの歴史といわれている。動力を伝えていくのは摩擦であるのと同時に、機械の駆動部分をスムーズに動かし、破損を防いで力を無駄なく伝えていくためには、摩擦に関する技術が不可欠となる。それを担うものが軸受だ。日本精工は創設当初から、日本の工業化をにらんでこの軸受技術に着目していた。先見の明というべきであろう。
創設者、山口武彦は、1891年(明治24年)東京工業学校(現・東京工業大学)機械科卒業と同時に、農商務省の特許局に勤めた。そこで機械の審査を担当しながら、欧米先進諸国の機械工業に対する関心を高めていたが、折よく、当時知己を得ていた高橋是清が日本初の製釘事業を興すことになり、1895年(明治28年)、そのための欧米視察を山口に命じた。欧米各国の工場を視察し、2年後に帰国した山口は、日本の技術水準が欧米に比べてはるかに遅れていることを実感し、1906年(明治39年)、日本の機械工業育成のために、輸入機械貿易業、山武商会を設立。その後1914年(大正3年)2月20日、機械工業に最も必要とされる軸受を生産主体とした日本精工合資会社を設立した。
当時日本の機械工業はまだまだ未発達で、軸受を必要とするような土壌はなく、日本精工合資会社は海軍向けの水雷ネジの製作からスタートし、その後、海軍の下請け工場として、さまざまな部品を製作した。この間、試作研究を続けていた軸受はようやく国産化実現の水準に達し、これを機に、1916年(大正5年)11月8日、新たに日本精工株式会社が設立された。
初の国産軸受を実用化
日本精工株式会社が設立された1916年頃、先進諸国では、軸受はすでに工業製品として確立されたものになっていた。アメリカでは自動車工業の成長とともに発展を遂げ、ヨーロッパでも、例えばスウェーデンのSKFという企業はすでに10年近い経験を積んでいた。日本では、第1次世界大戦を経て、ようやく機械工業興隆の兆しが見え始めたばかりで、軸受に対する認識は皆無だった。当然、専用機械などは1台もなく、日本精工では汎用機械を使い、SKFのカタログを参考にしながら、暗中模索のなか、試行錯誤が続けられた。こうした苦労の末、幾多の試作段階を経て、国産初の軸受製品を横須賀の海軍工廠に納入したのは、1916年半ばのことだった。
日本精工の技術陣は、合資会社時代から海軍出身者で固められており、そのため創業当初の製品受注はほとんどが海軍からのものだった。海軍の製品検査は厳重なことで知られていたが、製造者と発注者が同じ海軍の技術者とあって、競うようにして厳密な製品検査が行われ、そうしたなかで日本精工の技術第一主義は培われていった。こうして海軍の艦船を端緒に、第1次世界大戦下の好況を背景にして、航空機、自動車と、軸受の需要はしだいに広がっていった。自動車についても、当時、日本ではまだまだ試作段階であったが、日本精工は1917〜18年(大正6〜7年)頃に、改進社という工場で製作されたダット号のために、国産第1号の自動車専用軸受を納入している。
軸受専業の近代工業へ
1918年(大正7年)11月11日、第1次世界大戦が終結した。戦後1年余りで戦争による好況は終息し、過剰投資の反動で、株式市場の大暴落に次いで金融恐慌を招来、さらに1923年(大正12年)の関東大震災によって、経済界は徹底的な打撃を受けた。
創業以来順調に歩み続けてきた日本精工は、この時期、初の赤字を計上し、転換期を迎えることとなった。当時、日本の工業は繊維工業が中心であったが、戦争を契機に重化学工業が発達し始め、それまで軸受以外にも各種製品を生産していた日本精工は、将来、重工業の発展とともに軸受の重要性も格段に高まっていくものと考え、不況対策を契機に生産品目を絞り込み、完全に軸受専業メーカーとしての体制を整えることになったのだ。
産業界は不況にあえぎながら、各社とも合理化のために技術の改良、能率の増進、動力の節約などの必要性に迫られ、機械の能率を上げるために軸受の需要が高まり、それまでほぼ日本精工1社のみだった軸受業界に、新興メーカーが次々に生まれた。この時期が日本の軸受工業の勃興期ということができるだろう。やがて、1931年、満州事変が勃発し、日本は再び暗い影に覆われ始めた。軍部が主体となって高度国防国家建設を標榜し、航空機の生産が急激に増大し始めた。航空機用軸受の需要は自動車用軸受とともに大幅に拡大し、製造技術も格段の進歩を遂げて、いよいよ軸受工業の基盤が確立されるにいたった。
満州事変後、政府の国産品奨励もあって日本の軸受需要は年々増加し、日本精工では生産性を上げるために新工場が建設されることになった。1935年に完成した多摩川工場は、近代的な工場として機械設備の革新が図られ、徹底して改革された生産方式と管理方式によって、コスト低減をめざした大量生産化が実現された。これによって日本精工の生産能力は従来の2倍強に増大し、第1次大戦後の不況以来低迷していた経営状況は、完全に回復した。こうして日本の軸受工業は初めて近代工業としての形態を整え、その後、飛躍的な発展を遂げることになる。
戦後の復興から世界的ベアリングメーカーへ
1941年に太平洋戦争が始まると、日本の産業構造は重化学工業中心へと移行した。航空機工業、自動車工業を筆頭に、各種機械工業、化学工業が軍需産業として台頭し、軸受工業はこうした産業に不可欠な部品工業として未曾有の発展を遂げる。多摩川工場の建設によって、一町工場から近代企業へと脱皮を遂げた日本精工は、1935年以降急激に躍進し、1944年の総利益は、満州事変が起こった1931年と比較して、実に約413倍という驚異的な水準に達していた。
しかし、これをピークとして、戦時体制下に異常なまでの躍進を遂げた軸受工業は、1945年の終戦とともに崩壊する。勃興以来、主に軍需によって発展してきた軸受工業界は、その大きな基盤を失い暗中模索の状態にあったが、日本精工は1945年11月20日、日産重工業(現・日産自動車)からの発注により、いち早く操業を再開した。その後、運輸省の要請で鉄道車両用軸受を生産し、これによってようやく戦後初の本格的操業体制がスタートした。この鉄道車両用軸受はその後の技術開発の基礎となり、優れた品質はやがて東海道新幹線の軸受に結実することになる。1950年、朝鮮戦争が勃発し、軸受工業は特需によって戦後の沈滞期を完全に脱して、近代工業としての発展を開始した。1961年にいたって、日本の軸受生産高は、旧ソ連を除けば、アメリカ、旧西ドイツに次いで世界第3位となるまでに躍進した。日本精工は1958年に念願の対米輸出を開始、世界的ベアリングメーカーへの道を、いよいよ歩み始める。
トライボロジーが21世紀に果たす役割
現在、われわれが抱えている最も大きな問題のひとつは、いうまでもなく地球環境問題である。20世紀の主役として発展を謳歌してきた機械工業は、ここへきて転換期を迎えざるを得なくなった。軸受を核とした摩擦の技術、トライボロジーは、これまで機械工業の発展を促進させてきたが、今後、エネルギー効率を上げて省資源化を図る技術として、ますます重要な役割を担うことになるだろう。冒頭で述べたハーフトロイダルCVTは、トライボロジー技術の未来を予見させる、ひとつの解答である。日本精工は、自動車をはじめ、鉄道、航空機、コンピュータなど、さまざまな工業製品にトライボロジー技術を提供し、現在、売上高では世界第2位のベアリングメーカーへと成長している。日本の工業化を実現させてきたこの企業が、21世紀、産業界でどんな役割を演じていくか、注目に値する。
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